アンティークコインで資産を守れるか:結論と前提
ここでの「資産を守る」とは、物価が上がったりお金の価値が下がったりしても、できるだけ今と同じくらいの生活レベルを保てるようにする、という意味です。
アンティークコインの価値のもとになっているものは、大きく3つあります。(1) 二度と増えないという意味での希少性、(2) 歴史やデザインの美しさにもとづく人気、(3) PCGSやNGCといった第三者の鑑定会社による「グレード(状態)」の見える化、という3つです。
一方で、アンティークコインの市場は、金(ゴールド)や不動産ほど参加者が多くありません。そのため、「すぐに売れるか」「値段がどれくらいはっきりしているか」という点では、状況によって弱い場面もあります。
この記事では、「インフレへの備え(ヘッジ)」という目的に沿って、金・不動産・アンティークコインを同じ基準(インフレとの連動、売りやすさ/買いやすさ、持ち続けるコスト、税金・相続、必要な最低金額)で比べます。そのうえで、アンティークコインを資産の中でどんな位置づけで持つと現実的か、というところまで具体的に落とし込みます。
全体の考え方は、こちらの記事も合わせて読むとイメージしやすくなります。アンティークコイン投資とは:ポートフォリオの分散と安定性をもたらす資産戦略
インフレの基本:英国/日本の物価データから見るリスク

インフレ対策を考える前に、「何から自分の資産を守りたいのか」をはっきりさせることが大切です。
イギリスでは、CPI(消費者物価指数)、住宅費を含むCPIH、昔から使われているRPIという3つの指標があり、それぞれ上がり方が少しずつ違います。日本でも総務省が出しているCPIがあり、「総合・コア・コアコア」というようにいくつかの見方があります。どの数字を「物価のものさし」として見るかによって、「インフレヘッジできているか」の見え方が変わる点に注意が必要です。
たとえば、エネルギーや食料など、生活に直結する項目の値上がりが大きいときは、金の価格が上がりやすい傾向があります。アンティークコインは、コレクションとしての人気やテーマの話題性に左右される部分が大きくなります。
インフレの「続く長さ」「強さ」「政府や中央銀行の対応(利上げや金融引き締め)」の違いによって、どの資産が有利になるかは変わってきます。イギリスの昔の通貨制度やお金の歴史を知っておくと、「購買力(同じお金でどれだけ買えるか)」を考えるときにも役立つので、背景知識としてこちらもおすすめです。1ポンド=240ペンス?イギリス旧貨幣制度の全て
CPI/CPIH/RPIの違いと見方
CPIは、一般の人がふだん買うモノやサービスの値段がどれくらい変わったかを見る指標です。CPIHはそこに「持ち家に住んでいる人の住宅コスト」を加えたものです。RPIは歴史の長い指標ですが、最近は「数字の出し方」に議論もあり、ほかの指標と動き方が違う場面もよくあります。
自分の生活費の内訳に近い指標を「自分用のものさし」として選んでおくと、「インフレ対策がちゃんとできているか」を実感しやすくなります。
1990年代以降のインフレと資産の動き(ざっくり)
インフレと一口に言っても、形はひとつではありません。エネルギー価格だけが一時的に跳ね上がるパターンと、給料やサービス価格までじわじわと広がっていくパターンでは、強い資産が変わります。
一般的には、金は「長い目で見た購買力の維持」に役立ちやすい資産とされています。一方でアンティークコインは、市場での買いたい人・売りたい人のバランスや、テーマの人気度に強く影響されやすく、「どのコインを選ぶか」で結果の差が大きくなります。
金(ゴールド)との比較:守りの中心と役割分け

金は、長い期間で見ると「お金の価値が下がっても、モノを買う力を守りやすい」と言われています。インフレがはっきりしている時期には、株や現金と違う動きをしてくれることが多く、分散投資の意味でも役に立ちます。ただし、短い期間で「完全にインフレを打ち消してくれる」わけではない点は押さえておく必要があります。
売買のしやすさ(流動性)、価格の分かりやすさ、連動する指数や商品(地金、ETF、先物など)の種類の多さでは、金がアンティークコインよりも明らかに有利です。
アンティークコインは、銘柄・年号・グレード・タイプ(プルーフ/マットプルーフなど)によって、値動きがまったく違います。「どの銘柄か × 状態の良さ × 買う値段が妥当かどうか」をきちんと考えられるかどうかが、結果を大きく左右します。
現実的には、「金をインフレ対策の中心(守りの土台)」「アンティークコインをそれと動きの違うスパイス(アクセント)」として組み合わせる考え方が使いやすいです。金の基本的な位置づけは、こちらの記事で整理しています。金貨は今が買い時?現物資産としての魅力と分散投資のすすめ
比較のポイント(早見表)
| 比較する項目 | アンティークコイン | 金(地金/ETF) | 不動産 |
|---|---|---|---|
| インフレとの連動 | どの銘柄を選ぶか次第(長期で分散しやすい) | 長期では比較的強い/短期では限界あり | 時期や地域、金利しだい |
| 売りやすさ/買いやすさ(流動性) | 中くらい(人気やタイミングに左右される) | 高い(市場規模が大きい) | 低い(売却に時間と手間がかかる) |
| かかるコスト | 買値と売値の差、鑑定料、輸送・保険など | 保管料、買値と売値の差 | 税金、維持費、修繕費、仲介手数料 |
| 最小金額 | 選ぶ銘柄の価格による | 小口で分けて買いやすい | 大きい(基本的に高額から) |
| 情報の分かりやすさ | 事例がバラバラ、指数は目安程度 | 指数が豊富で価格も見えやすい | 物件ごとの差が大きい |
| 主なリスク | 偽物、為替、人気の弱まり | 金利、ドル高、各国の政策 | 金利、空室リスク、固定費 |
不動産との比較:「いつの時期か」で変わる強さ

「不動産はインフレに強い」という言い方をよく聞きますが、実際には「どの期間」「どの地域」「どんな金利環境か」によって結果がかなり変わります。
家賃を上げやすい時期には、インフレに対して一定の強さを発揮します。しかし、金利が上がる時期や、空室が増える時期には、家賃から残るお金(キャッシュフロー)が傷むこともあります。また、売りにくさ・維持費・固定資産税・修繕費など、「持っているだけでかかる重さ」が値動きを大きくする理由にもなります。
アンティークコインは、保管にかかる固定費は比較的軽い一方で、「いつ・どこで・どう売るか」を考えるのが少し難しくなりがちです。現物どうしの分散という意味では、「不動産の割合が重くなりすぎたポートフォリオに、より軽い現物であるコインを少し混ぜる」という考え方に合理性があります。
配分の考え方は、こちらの記事も参考になります。どっちを買うべき?モダンコイン・アンティークコイン比較|投資初心者が知るべき予算別ポートフォリオ戦略
コインの価格を決める要素:希少性・グレード・人気

アンティークコインの価格は、ざっくり言うと次の掛け合わせで決まります。
希少性(発行枚数 / 今も残っている枚数 / Population) × グレード(Top Pop/準Top Popかどうか) × 題材(歴史的な意味やデザインの良さ) × 人気の厚さ(国内外にどれくらいファンがいるか)
特にPopulation(同じ条件のコインが何枚あるか)とTop Pop(その中で最高グレードのもの)は、「人気が集中しやすいポイント」になります。同じグレードの中でも、わずかな差(±0.5グレードの違いや、色づき・打刻の強さなど)で、大きな価格差がつくこともよくあります。
指数(コイン市場全体の平均的な値動きを示すグラフ)は、あくまで「ざっくりした目安」です。あなたが実際に買う1枚が割高か割安かを判断するには、鑑定番号、写真、過去のオークション結果、ディーラーの過去の評価など、具体的な情報でしっかり裏付けを取る必要があります。
コインの選び方の基本は、こちらの記事で体系的にまとめています。値上がりするアンティークコインの見分け方|希少性・グレード・人気の3要素を徹底解説
実務でのちょっとしたコツ
- 鑑定スラブ(PCGS/NGC)と鑑定番号が本物かどうか、公式サイトで照合する。
- 同じ銘柄・同じグレードの直近の落札価格帯を、できれば複数件チェックする。
- 由来(Provenance)や、有名なカタログに載ったことがあれば、プラス要素として考える。
- 写真は、少し斜めから光を当てたものも確認して、ヘアラインや打刻の弱い部分をチェックする。
販売中の
アンティークコイン一覧
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高鑑定品・限定枚数コインなど、投資・コレクション両面からご検討いただけます。
よくあるリスクと対処:偽物・売りにくさ・価格差・為替

アンティークコインのリスク管理は、「買う前にどれだけ準備するか」が8割です。
まずは、未鑑定(Raw)の高額品は避けるのが基本です。PCGSやNGCなど、第三者鑑定済みのコインから始める方が安全です。オークションでの落札価格と店頭価格の差、出品手数料・落札手数料・輸送保険を合計して、「実際にいくらかかっているか」で比較しましょう。
また、「誰に売るのか(ディーラーか、オークションか)」を先に決めておく、いわゆる逆算思考も大切です。ポンド建てやドル建てで取引する場合は、そのときの為替レートをメモしておくと、あとから振り返りやすくなります。
リスク全体の整理は、こちらの記事で詳しく解説しています。アンティークコイン投資のリスク完全ガイド|流動性・偽物・盗難など5つの注意点
配分とマイルール作り:リスクの考え方別モデル
ここからお伝えする内容は、将来の結果を約束するものではなく、「考え方の例」として受け取ってください。
金利が上がっていて、インフレも続いている場面では、「金を守りの中心」「アンティークコインをそれと動きの違うスパイス」として持ち、現金もある程度キープしておくイメージです。不動産は、家賃収入の安定度を見ながら比率を調整します。
金利が下がり、インフレも落ち着いてきた場面では、金の比率を少し抑えつつ、コインは「銘柄選びをしっかりして少額に分ける」というスタイルが現実的です。為替が大きく動いているときは、まとめて一度に買うのではなく、回数を分けて買う(ドルコスト平均)なども検討に値します。
基本ルールとしては、(1) 自分なりの「最大投資額の上限」を決める、(2) 資産配分が想定より大きくずれたときに見直す基準を決める、(3) あらかじめ「どこにどう売るか」の流れを決めておく、の3つが重要です。
設計のヒントは、こちらでより詳しく紹介しています。アンティークコイン投資で失敗しないために必ずやるべきこと
指数と過去の値動きの見方:具体例で理解する

PCGSが出している指数や、コレクション全体の指数などは、「今、市場全体が強いのか弱いのか」「過熱していないか」を見るうえで役に立ちます。ただし、「指数の動き = 自分のコインの動き」ではない点に注意が必要です。
おすすめの見方の順番は次の通りです。
(1) 指数のトレンド(長期/中期/短期)を見る
(2) 似た系統の銘柄の落札価格帯を調べる
(3) 自分のコインのグレードと見た目を確認する
(4) 直近の人気・出品状況(出品が多すぎないか、むしろ少なすぎないか)を見る
(5) 売却ルートごとの手数料を全部含めた「手取り」を計算してみる
こうした流れで、「全体像 → 個別」という順番で考えると、感情に振り回されにくくなります。全体像の整理には、こちらの総まとめ記事も役立ちます。アンティークコイン投資完全ガイド:初心者が失敗しない始め方と成功への9つのステップ
始め方:購入・保管・売却のチェックリスト
購入前チェック
- 第三者鑑定の有無(鑑定番号の照合)と、同じ銘柄・同じグレードの直近の落札価格帯をチェックする。
- 販売者の信頼度(これまでの評価や保証内容)と、提示されている価格の理由を確認する。
- 輸送保険・関税・各種手数料を含めた「支払い総額」を見積もる。
保管
- 湿気を避ける(シリカゲルや乾燥ケースの利用)、急な温度変化を避ける、必要に応じて保険に入る。
- スラブの擦り傷や落下を防ぐ保管方法をとり、高解像度の写真をバックアップとして残しておく。
売却準備
- 売却候補先を2〜3ルートほど確保し、それぞれの手数料や入金タイミングを比較しておく。
- Top Pop、Provenance、人気のある題材など、そのコインの「支えになるポイント」を整理しておく。
- 為替と手数料を含めた「手元に残る金額」の目安をメモしておく。
英国と日本の両方にまたがる実務や、出口戦略(どう売却するか)まで含めたご相談は、こちらのサービス案内からお問い合わせいただけます。イギリスで地金金貨を購入&保管&売却しませんか?
よくある質問(FAQ)

- Q1. 最低どれくらいの予算が必要ですか?
- A. 数万円からスタートすることは可能です。ただし、第三者鑑定済みの定番銘柄にしぼる場合は、10万円台くらいから選択肢が増えてきます。まずは「小さく試してみる」ことを優先してください。基本的な考え方は、こちらの記事でも確認できます。〖初心者必見〗アンティークコイン投資で失敗しないための7つの鉄則(最新版)
- Q2. 地金型コインとの違いは何ですか?
- A. 地金型コインは、金の価格と連動しやすく、売りやすさ・価格の分かりやすさに優れています。アンティークコインは、銘柄の選び方しだいで金とは違う動きをしてくれる面白さがある一方で、売買コストや売るタイミングに注意が必要です。
- Q3. 偽物を見抜くにはどうすればいいですか?
- A. 基本は第三者鑑定を使うことです。未鑑定の高額品は避け、鑑定番号が合っているかの照合、直近のオークション価格の確認、信頼できる販売者かどうかのチェックを徹底してください。
- Q4. 税金はどう考えればいいですか?
- A. 一般論として、売却益が出た場合には課税対象になる可能性があります。お住まいの国や地域によってルールが違うため、最新の情報を必ず確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談してください(本記事はあくまで一般的な情報であり、税務アドバイスではありません)。
用語集
- Population(ポピュレーション):同じ銘柄・同じ年号・同じタイプで、鑑定に出されているコインの枚数。
- Top Pop:同じ条件の中で、いちばん高いグレードをもらっているコイン。
- Provenance:そのコインが「これまでどこにあったか」という来歴。有名コレクションの出身などはプラス要素になります。
- Eye Appeal:見た目の良さ。打刻、光沢、色づき(トーン)などをまとめた印象です。
まとめ
- インフレ対策の中心は金、アンティークコインはそれと動きの違う「アクセント」として役立ちます。
- アンティークコインは、「どのコインを選ぶか」と「実務(鑑定・相場の根拠・売り方の準備)」が結果を大きく左右します。
- 資産を守るうえでは、「投資額の上限を決める」「配分がズレたら戻す」「コストをトータルで把握する」がとても重要です。
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